温度のゆらぐランジュバン方程式
物理学 Advent Calendar 2014 - Adventar 20日目の記事です。
ブラウン運動を表現する確率微分方程式であるLangevin方程式とそれを拡張した温度のゆらぐLangevin方程式の話をします。 また、幾何ブラウン運動は金融商品のモデル化に利用されたりするので、そのあたりについても少し触れます。
ブラウン運動
ブラウン運動は、簡単に説明すると、液体中の小さな粒子がランダムに動くような現象です。 水分子が不規則に衝突することによって、ブラウン運動が生じます。
ランジュバン方程式
質量1のブラウン粒子について、速度をv、抵抗係数をγ(>0)、ガウス分布に従う項をη、その係数をαとすると、
のように書けます。第1項は速度とマイナスの積なので、速度と反対方向に作用する粘性力の項です。第2項はランダム項で、水分子の不規則な衝突に対応します。
さて、幾何ブラウン運動は金融商品のモデル化に利用されることがありますが、実際の価格変動をうまくモデル化できていないという批判があります。この方程式で記述されるブラウン粒子の速度分布はガウス分布に従うわけですが、実際の金融商品の価格変動はより裾の広い分布に従っているため、ガウス分布で想定されるよりも大きな価格変動が生じる可能性があります。
温度のゆらぐランジュバン方程式
温度のゆらぐランジュバン方程式では、新たなパラメータとしてβ(=γ/α2)を導入し、非線形なランジュバン方程式を表現します。βは統計力学における温度の逆数にあたります。 式の導出はこちらに載っているので省略しますが、このβがカイ2乗分布に従う形で変動します。また、βの変動はブラウン粒子を観測する時間幅よりも大きな時間スケールです(ゆっくり変動する)。
この方程式では、ブラウン粒子の速度分布はガウス分布ではなく、より裾の広い分布となります。 実際にドル円の規格化したログリターンのヒストグラムのプロットをみてみると、正規分布(グリーンの線)よりも裾の広い分布で表現できていることが分かります。
参考文献
Dynamical Foundations of Nonextensive Statistical Mechanics Phys. Rev. Lett. 87, 180601 – Published 10 October 2001 Christian Beck http://journals.aps.org/prl/pdf/10.1103/PhysRevLett.87.180601